NakamuraEmiほど生き様がかっこいい女性シンガーを見つけるのは難しい。
いわゆる脱サラ組のNakamuraEmiは様々な仕事を経験しながら音楽を作ってきた。
経験から綴られる彼女のメッセージは常にシンプルで、力強い。その強さがリスナーに勇気をパワーを与えてくれる。
パワフルなのはメッセージだけではない。
小柄な身体からは想像できないほどにガツンとくる歌。詞を反映させたバンドサウンドもNakamuraEmiの魅力だ。サポート入ることが多いギターのカワムラヒロシ、ドラムのTOMO KANNOのアレンジセンスは素晴らしく、曲のかっこよさを作り出している。
この記事ではNakamuraEmiがリリースした曲のなかから、歌詞と音楽アレンジについて解説しつつ、私が好きな5曲を紹介したい。
YAMABIKO
『YAMABIKO』はNakamuraEmiの代表曲であり、一番人気曲。
その理由はリスナーに勇気を与えるからだ。
応援ソングと言ってしまうと陳腐に感じてしまう。
それはただ頑張れと言われるだけでは人の心には響かないからだ。
『YAMABIKO』はそんなチープな応援ソングではない。
ぜひMVを見てほしい。
いろいろな仕事をしている人が出てくると思う。
それぞれが自分の目指す《頂上》に向かって《険しい山道を登りながら》日々生きている。
- PCに向かってキーボードを打つ
- 包丁を握って魚を捌く
- カウンターに立って酒を覚える
みんなバラバラだが、自分が目指す道を極めようとしている。
頂上の高さなんて 隣と比べるもんじゃない
NakamuraEmi『YAMABIKO』より引用
頂上まで己を信じて 歩ける強さが全てだ
物事が上手くいかないときは、どうしても他人と比べてしまう。
でも、目指すゴールは人それぞれ。自分を信じて脇目も振らずに頂上を目指す。
頂上を目の前に引き返さねばならぬのなら
NakamuraEmi『YAMABIKO』より引用
それも勇気だ 涙を拭って
何度でもまた登って前を向け!
ただ撤退しなければならないこともある。
それは負けではない。引き際で判断するのもとても勇気のいることだ。
- 他人と比べず、自分が選んだ道を信じる
- 撤退するのも勇気、まだチャレンジできる
この2つのメッセージはすごく伝わってきた。
なにかを目指し、挫折したことがある人の心にはズンと響く曲だ。
音楽的にも『YAMABIKO』はかっこいい。
NakamuraEmiの力強いボーカルとギターだけで進行するイントロ~Aメロから、ドラムのロールで切り替わり、ガツンとバンドサウンドになる。
ベースラインが面白いので、歌詞のみならず、サウンドもじっくり聴いてほしい。
収録アルバム
ばけもの
『ばけもの』はそのタイトルに目を奪われるが、女性の強さと弱さを歌った曲だ。
歌詞は大まかに3つのセクションに分かれている。
- 1番では自分の弱さと閉ざす心。
- 2番では本来の欲望と弱さの認知。
- ラストには切り替えと奮起。
神様が与えた 女の辛抱強さ
NakamuraEmi『ばけもの』より引用
それを時に 我慢に変えた
それが時に 美徳になった
女性に限った話ではないが、この国では忍耐・我慢が美徳になっていると思う。
それをストレートに出した詞だ。
女を生き抜くために 弱さを丸めて捨てたけど
NakamuraEmi『ばけもの』より引用
残念ながらその弱さ 私らしさでもありました
「弱さを《丸めて》捨てた」という表現がすごく好きだ。
丸めるという言葉にやるせない気持ち、怒りがつまっていると思う。
そして《弱さ》も自分のアイデンティティだと認めて、切り替え、日々を強く生きていく。
『ばけもの』は女性だけにとどまらず、全性別に伝わるメッセージが含まれている。
NakamuraEmiの曲は凝ったリズムパターンが多い。
しかし『ばけもの』はシンプルだ。
そのなかでも、スネアの音作りが曲にハマっている。
余計なサスティーンを減らして、ベースも含めた音の輪郭がハッキリしている。
この音作りが『ばけもの』のかっこよさを高めていると思う。
収録アルバム
かかってこいよ
『かかってこいよ』は現代社会に切り込んでいく曲だ。
歌詞には攻撃的な言葉が並ぶ。
しかし、NakamuraEmiはリスナーを攻撃しようとしているのでない。
目を合わせて争う厄介な痛み 相手を傷つけた嫌な余韻
NakamuraEmi『かかってこいよ』より引用
そんなのも知らず戦争も知らず 電波に乗っけて傷つけるだけ
SNS時代の今では、いつでも他人に悪意のある言葉を投げつけられる。
それまでは面と向かって言い合うことでお互い痛みを感じていたはずだ。
SNSでは殴る痛みも思わず言ってしまった言葉のあとにくる苦い余韻もない。
2番では乱発する《ハラスメント》にも言及している。
これもハラスメントがないと言っているわけではない。
『かかってこいよ』の歌詞に共通しているのはお互いの考えを尊重し、他人との信頼関係を築くことの大切さだ。
他人を敵視して攻撃するのではなく、自身に牙を向け、己を見つめ直す。
かかってこいよとは自分へのメッセージソングだ。
『かかってこいよ』Aメロのリズムパターンが凝っているのが面白い。
NakamuraEmiの歌詞がスパッと入っているようにアレンジされていると思う。
かと思えばBメロでは包み込むようなアレンジになっている。
これも歌詞に合わせて考えられたのだろう。
そしてサビでは3拍目にパワフルなスネアがパン!と響く。
まさに『かかってこいよ』と言っているかのようなバンドアレンジだ。
関連記事 「NakamuraEmi『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.5』レビュー」を読む
収録アルバム
Don’t
『Don’t』は「笑ゥせぇるすまんNEW」のオープニングソングだったこともあり、その歌詞は人の欲望がテーマになっている。
ほろ酔い位が丁度いいのにどんどん手が出る美味しいお酒
ナチュラルぐらい位が丁度いいのどんどん濃くなる厚化粧手に入れたい 満たされたい 気持ちがいい 一歩折れたらどツボ
NakamuraEmi「Don’t」より引用
昔話で教わった 欲張りは後で懲らしめられる
まさに欲望への警告だ。「笑ゥせぇるすまん」の主人公・喪黒福造が発する警告と言える。
おいおい子どもがお前を見てるぞ うつつを抜かせばスキマは真っ黒
NakamuraEmi「Don’t」より引用
自らを律して、子どもに見せられるような大人であれというメッセージが詰まっている曲だ。
余談だが、歌詞のなかには笑ゥせぇるすまんへのリスペクトがこめられている。
《スキマ》というのは、喪黒の名刺に書かれている文言だ。さらに「お客様のココロのスキマ」というセリフもよく使う。
「スキマ」がカタカナなのも、NakamuraEmiのこだわりだろう。
《真っ黒》も《喪黒》をかけているように感じる。旧作を観ていた作品へリスペクトだろう。
シンプルなリズムに洒落たギターとNakamuraEmiの歌声がよく映える。
間奏に入るギターソロもかっこいい。
Aメロやサビで使われているヴィブラスラップ(カァーと鳴るパーカッション)も面白い。
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収録アルバム
BEST
『BEST』はタイトルのとおり、収録された《ベストアルバム》について綴った曲だ。
二畳の小さなスタジオで産んだ もう1人の私は
NakamuraEmi「BEST」より引用
評価され 嫌われ 愛され 誰かの あなたの 側で息をした
2枚目のベストアルバムの1曲にリスナーへの感謝を伝えるのもNakamuraEmiらしいと思う。
彼女がいかにメッセージと仲間を大切にしているのか伝わる詞だ。
ザクザクと切れ味の鋭いギター、迫力のあるドラム、味のあるベースがそれぞれ主張しながらもNakamuraEmiが立っているのはソロシンガーというよりもバンドのボーカルのようだ。
NakamuraEmiだからこそ集まる、手練たちのサウンドも〈BEST〉だ。
収録アルバム
おわりに
今回はサウンド的にも強気な5曲を取り上げた。
これ以外にもNakamuraEmiの曲はかっこいいものが多いが『新聞』『おむかい』などホッとするような曲も作っている。
女性として詞を書いているだけに、その良さが男性に伝わらないことが多いが、彼女のメッセージは性別に関係なく伝わる。
より多くの人がNakamuraEmiのかっこよさに気がついてほしい。
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